そして男は時計を捨てた・・・

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2020年の写真集「東京、コロナ禍」

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抗いがたく日々を侵食した新型コロナウイルス。
2020年はそのウイルスに人々は翻弄されました。


マスク、消毒液、手洗い洗浄液といった生活必需品。緊急事態宣言、ソーシャルディスタンス、3密など前年までは耳にしたこともない言葉が並び、ビニールシートが下がるレジ、間を空けた行列、シャッターが閉まったままの空き店舗など、それは今や見慣れつつある街の風景です。


日常生活にするりと入り込んできて、最初は微かな違和感があったものの、すぐに抗(あらが)いようもなく定着してしまった「新しいノーマル」が、あまりにもたくさんあったのです。


『東京、コロナ禍。』(写真・初沢亜利、柏書房、2020年8月発行)という写真集があります。

東京、コロナ禍。 [ 初沢 亜利 ]

価格:1,980円
(2021/1/8 17:53時点)
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「年明けから少しずつ東京の街に出て撮影するようになった。期せずしてコロナ禍に突入した。」という言葉とともに東京に暮らす人のなにげない数枚が続いた後に、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の写真を皮切りに、少しずつ変わっていきます。写真集には2020年の東京の風景が7月まで記録されています。


2月下旬にはまだ、駅の喫煙室はぎゅうぎゅう詰め状態ですが、街からだんだんと人が減っていき、それまで多くの人が行き交う場所として記憶していたはずの駅、ホテルのロビーが無人になります。



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一方で、緊急事態宣言(4月7日)が出た後でも、人が密集している場所があります。


街とは一夜にして変わるのではなく、日々少しずつ、人間の手によって変わっていくことに気づかされます。


写真は時系列に並んでいます。外国人旅行者の増加を前提とした羽田空港新飛行ルートの運用開始(3月29日)、練馬区のとんかつ店で火災が起こり、オリンピックの聖火ランナーに選ばれていた店主が焼死(4月30日)、医療従事者に感謝を示すためにブルーインパルスが飛行(5月29日)といった時事関連の写真も、間にはさまっています。



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それらはいわゆる報道写真ではなく、妙な生々しさがありますが、こんなことがあったなという具体的な年月を刻む目安になります。


5月11日、品川の東京出入国在留管理局の写真は、狭い部屋に閉じ込められている外国人にマスクを配られていないことがわかります。


コロナウイルスによって何もかもが変わってしまった、と言われますが、これまでにもあった問題がコロナウイルスによって表に出てきただけということかもしれません。インバウンドに沸いた街の裏側の実態が伝わってきます。


2020年を振り返ってみたなら、なんだかよくわからない、まだ自分の中でうまく咀嚼できていない、と感じることはないでしょうか。


自分を取り巻く世界の変化があまりにも大きすぎてしまい、対処方法も、感情の落ち着きどころも、すべてが流動的で頼りなく、ただただ不安だけが積み重なっていく・・・生活は一変し、でもすべてがまるで、モヤにかかったように不鮮明で・・・


この写真集は、こうした不鮮明さについて考える“よすが”となるのではないかと思います。



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初沢亜利氏が撮る写真は、時間を可視化してクリアに見える一方で、理解しようとすればするほど遠ざかっていくような、そして何かを問いかけられているような気がしてきます。


それだけに、見るときの自分の状態によって、写真から受け取る印象が違ってきます。


3月29日日曜日の上野公園の桜の写真があります。24日に東京オリンピック・パラリンピック延期が発表され、翌25日には週末の外出を控えるように都知事から要請が出されます。27日には国内の感染者数が1日の数としては最多を記録し、日々更新されていきました。


そんな地獄のはじまりのような週の週末、上野公園は桜並木が封鎖され、さらに雪が舞うほどの寒さでした。例年ならば花見客でごった返す場所には、人ひとりおらずただ雪が降っていたのです。2020年の東京を象徴しているような1枚です。


初めて見る人にとっては美しい写真だと思うのでしょう。

しかしその後、何度も見返せば、2020年の3月に自分は何を考えていたのか、2021年の3月はどうなっているのかと、桜から離れて写真の内容とは一見関係のないようなことを、自分の立ち位置の確認のようなことを、考えるようになっていくかもしれません。


コロナ禍の中で生活していく不鮮明な気持ちを支えるのは、おそらく考え続けることなのかもしれません。


どうあがいても、ウイルスがやってくる以前の生活が戻ってくることはないのだ。何が起こったのか、今何が起こっているのか、世間の“みんな“が言うことに流されるのではなく、自分の意志で考え続けていく。


写真集の最後は、見開きで、交差点を行き交う人びとの写真があります。


この1枚をあえて最後にもってきた意図は、何なのでしょう。ただ、この1枚からは音がします。靴の音、話し声、信号機の音、車のエンジン音、そうした雑踏の音。


この音を聞くことで、現実に引き戻されていきます。思考を思考だけに終わらせず、街へ出て実践にうつそうという力が湧いてくる1枚。


写真集『東京、コロナ禍。』は、2020年を考え続け、次に進むための灯台となってくれるはずです。