そして男は時計を捨てた・・・ひとり編集長の冒険

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「産業革命前はガン患者1%だった」説は本当なのか?

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「死の勝利」を描いた15世紀イタリアの作者不明のフレスコ画・・・。一般的に中世の3大疾患は、感染症、栄養失調、そして戦争や事故による負傷だったと考えられています。



そして、現代では、英国人の半数以上が一生のうちにガンと診断されると言われています。一方で考古学的証拠から、産業革命以前には、ガンにかかる英国人は1%程度だったと考えられてきました。



しかし、2021年5月4日付けで学術誌「Cancer」に発表された論文では、この1%という見積もりは小さすぎた可能性が指摘されています。




研究では、現代のガン検出ツールを用いて、数百年前に埋葬された遺骨を分析しました。その結果、産業革命以前の英国人がガンにかかる確率は、これまで考えられていたより少なくとも10倍以上高かった可能性があることが明らかになったのです。



この研究を主導したのは、英ケンブリッジ大学のピアース・ミッチェル氏です。同大学の考古学科で古病理学の研究を行う傍ら、英国の国民医療制度(NHS)の病院でガン患者の整形外科手術を担当しています。




人類学においてはこれまで、産業革命前には環境中の発ガン性物質の量が大幅に少なかったために、英国人のガン発生率は現在よりもはるかに低かったとされてきました。




しかし、現代の患者を診てきた経験から、ミッチェル氏はこうした見方にずっと懐疑的だったといいます。



工業化以前の英国に発がん性物質がなかったわけではありません。人々はアルコールを日常的に摂取し、薪や石炭を燃やした時に出る汚染物質にさらされ、加齢に伴って細胞が突然変異するリスクも抱えていました。



しかし、ガンの脅威が著しく増大したのは、16世紀に英国に入ってきたタバコや18世紀以降の産業活動で発生した大気汚染などに含まれる発がん性物質が、人々の日常生活に入り込んでからのことです。



これまでの研究では、産業革命以前の人々がガンだったかどうかを、主に遺骨の目視評価に頼っていました。つまり、特定のがんの広がりを示す特徴的な病変があるかどうかを調べていたのです。



ミッチェル氏は、過去の時代のガンが過小評価されてきた理由はそこにあると考えています。ガンの大部分は軟部組織で発生し、骨に転移するものは骨髄から外側に向かって広がります。そのため、骨の外側だけを見てもわからない部分が多いのも事実です。



古い遺骨でガンを見つける精度を高めるために、ミッチェル氏と研究チームは、現代の患者の診断に使用しているのと同じCTスキャナーとX線装置を用いて143体の成人の骨を分析したのです。遺骨は、英国のケンブリッジ周辺にある紀元6~16世紀初頭の6つの中世の墓地から集められました。



チームは、CTとX線を組み合わせたミッチェル氏の判断と、英ピーターバラ市立病院の放射線科医アラステール・リトルウッド氏の所見が一致した場合にのみ、ガンと診断します。



この二段階の診断方式によって、対象となった骨の大半はガンと診断されず、最終的に143人中5人の骨にガンが見つかったのです。



しかし、この数字は、対象となった故人がかかっていた可能性のあるガンを完全に捕捉できてはいないかもしれません。



現代のガンによる死亡者のうち骨に転移している人の割合は3人に1人から2人に1人であり、CTスキャンで骨のガンが検出されるのは75%程度なのです。



こうした数字を中世の遺骨に適用したところ、産業革命以前の英国人が生涯でガンにかかる確率は9~14%だったと推定されたのです。この値は、従来説の約1%に比べても10倍になります。



血液や組織を検査して他の病気の可能性を除外することができないために、今回の研究で確認されたすべての骨病変がガンによるものかはわかりません。



また、単一の地域で得られたサンプルを用いていて、必ずしも中世初期の英国全体の傾向を表しているとは限りません。ただしミッチェル氏によれば、ケンブリッジは当時の英国としては「非常に平均的」な町だったといいます。



今回の研究は、中世の病気にまつわる固定観念を揺るがすものです。これまでは、感染症、栄養失調、そして戦争や事故による負傷が、中世の3大疾患だと考えられてきたからです。



これは生物考古学と古病理学の分野における素晴らしい一歩なのかもしれません。



X線装置を利用できる考古学者は今、増えてきていますが、資金不足や運用上の困難から、CTスキャナーを利用できる研究者は少ないといいます。これからは、より多くの研究者がCT技術を活用できるようになってほしいものです。



「研究者が本気でガンの証拠を探し始めたのは、ここ数十年のことに過ぎず、ミッチェル氏は1つの研究だけで過去のガン発生率を推測することに対しては注意を促していますが、ミッチェル氏の手法をより多くのサンプルに適用すれば、より地域と時代を広げて過去のガンを調査することができるはずです。



ミッチェル氏が最も期待しているのは、この研究が現代医学に与える影響です。タバコや工場が出す煙、自動車の排ガスなどの発ガン性物質が、現在の私たちにどのような影響を与えているかを、科学者たちは知っています。



しかし、ガンが産業革命以前の社会にどのような影響を与えたかを知ることは、それらの発ガン性物質が人間の健康にどのような変化をもたらしたかを定量的に把握するのに役立つ可能性があります。



また今回の研究は、太陽光線、鉛、室内での火の使用、ウイルス、寄生虫など、非工業由来の発ガン性物質の影響をより理解するのにも役立つとミッチェル氏は話しています。



両氏とも、すべてのガンがタバコや産業汚染物質などの発がん性物質によって引き起こされるわけではなく、年齢、遺伝、突然変異なども関係している点を強調しています。これは、汚染物質や喫煙を完全に取り除いたとしても、ガンは減るとはいえ、完全になくなるわけではないことを指しています。



それでも、古病理学と現代医学を連携させることで、いつの日か体に良くないあるものが、ガンのリスクをどの程度高めたり低めたりするのかを定量的に把握できるようになるかもしれません。


たとえそうでなくても、古代の骨のガンの診断を続ける価値はあるはずです。



ミッチェル氏はこう語ります。



「ある程度の不確実性は常にありますが、それでよいのです。私たちは、常に明確な答えを得られなくても構わない、と思えるようにならなければなりません・・・」