そして男は時計を捨てた・・・

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最近よく聞く「線状降水帯」の正体とは?

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その現象自体はむかしからあったにもかかわらず、インパクトの強い名前がついたとたんに有名になって、世間の注目を浴びることがあります。まさにネーミングの効果ともいえます。集中豪雨を引き起こすさまざまな原因の1つである「線状降水帯」も、その好例です。




新聞などで、一般にこの言葉が使われるようになったのは2010年代に入ってからのことです。気象学では古くから「線状メソ対流系」として知られていましたが、土砂災害で70人以上もの犠牲者を出した2014年8月の広島豪雨のあたりから、「線状降水帯」として一般社会に広がったのです。その意味では、1990年代の「地球温暖化」と事情が似ているといえます。




線状降水帯には、じつは学術的な定義はありません。気象庁は、長さ50~300キロメートル、幅20~50キロメートルくらいの線状の領域で次々と積乱雲ができ、しかもその領域が長い時間そこにとどまって強い雨を降らせつづけるものを指しています。帯状に横たわる豪雨域です。




同じ地域に長時間にわたって大量の雨を落とす線状降水帯は、確かに防災のうえで警戒すべきものです。そして、豪雨災害が起こったとき、その原因を説明できるキーワードとして、いかにもマスメディア好みでもあります。気象庁も2021年6月から、災害への備えを線状降水帯に限って特別に警告する「顕著な大雨に関する情報」を新たに設けました。



線状降水帯で雨を降らすのは積乱雲です。夏の夕方、青い空にもくもくと湧き上がって夕立をもたらす、あの積乱雲。夕立との違いは「雨の継続時間」にあります。




1つの積乱雲が「出来はじめて雨を降らせ、衰えて消滅するまで」の時間は、せいぜい1時間くらいです。そのうち激しい雨を落とすのは30分ほどといいます。




それに対して、線状降水帯の積乱雲は、何時間にもわたって豪雨をもたらします。線状降水帯の積乱雲そのものが特殊なのではありません。いくつもの積乱雲が生まれては消え、生まれては消えを線状降水帯の中で繰り返すのです。いわば「組織化された積乱雲群」が線状降水帯の正体です。




そして、積乱雲と線状降水帯をつくり出す、「影の主役」が存在します。




個々の積乱雲にとっても線状降水帯にとっても、その主役は水蒸気です。しかもこの主役は、一人二役を演じます。




1つは「雨のもと」としての役。もう1つは「熱源」としての役です。



水の3つの状態のうち、気体が水蒸気で、固体が氷、それに液体の水です。水蒸気を含む空気が冷えると、含み切れなくなったぶんの水蒸気が水や氷になります。水蒸気が「雨のもと」であるのは理解しやすいと思います。




次は「熱源」です。積乱雲ができるには、水蒸気をたっぷり含んだ湿った空気が必要となります。この空気がなんらかのきっかけで上昇すると、気圧が下がって膨張します。膨張すると温度が下がります。温度が下がると水蒸気が水や氷になります。このとき「潜熱(せんねつ)」とよばれる熱を出すのです。




上昇する空気の温度は下がりますが、水蒸気が水や氷になりながら上昇すると、その際に放出される潜熱で温度の低下はゆるやかになります。まわりの大気はもともと、高度が増すほど冷たいので、やがて、上昇する空気のほうがまわりの大気より暖かい状態になります。




こうなると、空気はまわりの大気より軽いので、放っておいても上昇を続けるようになります。この境目の高度を「自由対流高度」といいます。




この過程で、空気に含まれている水蒸気は、みずから上昇を続けられるようになるための「熱源」としての役割を演じています。もし、この「熱源」がない乾燥した空気だったら、仮に空気が地面近くから上昇をはじめても、そのあたりの小規模な対流で終わってしまい、ぐんぐん上昇して背の高い積乱雲が立つような大規模な対流にはならないのです。




それでは、それがなぜ「線状」に並ぶのでしょうか?




線状降水帯は、「つねに5人が並んでいるスーパーのレジ」のイメージで考えるとわかりやすいと思います。先頭の人が支払いをすませて列からいなくなると、末尾に1人加わり、次の人が支払っていなくなると、また末尾に別の人が並ぶイメ-ジ。




個々の人は少しずつ前に進み、5人の構成メンバーは変わっていきますが、列そのものの位置は変わりません。




この一人ひとりが積乱雲で、5人の列が線状降水帯です。先頭の積乱雲は衰えて消滅し、末尾で新たな積乱雲が成長をはじめます。個々の積乱雲は前方に移動しながら雨を降らせて一生を終えますが、線状降水帯はひとところにとどまるのです。




そして、線状降水帯ができるには、いくつかの条件が必要です。




まず、高度数千メートル以下の大気下層に、水蒸気をたっぷり含んだ空気が供給されつづけることです。




じつは、夏場の湿った日本でも、頭上の大気には、雨の量にして40~50ミリ分の水蒸気しか含まれていません。周囲から供給されつづけないかぎり、ある地点の総雨量が数百ミリにもなるようなことはありません。それに、水蒸気が十分になければ、勢いのある積乱雲はできないのです。




次の条件は、下層の湿った空気が、なんらかの理由で強制的に持ち上げられることです。




たとえば、異なる方向からの大気の流れがぶつかると、行き場を失った空気は上昇します。山にぶつかった流れも、やはり斜面を駆けのぼります。すでにできあがった積乱雲の中を雨とともに下降してきた気流が地面にあたって周囲に広がり、それが別の風と衝突して、すぐ隣に上昇気流を生むこともあります。




こうして、湿った空気が自由対流高度にまで達すると、あとは放っておいても積乱雲は成長を続けます。




空気に含まれている水蒸気が多ければ多いほど、高度が低いうちから水蒸気は水や氷に変わって潜熱を出し、みずからを暖めます。したがって、自由対流高度は低くなります。つまり、ほんのすこし強制的に上昇させるだけで、あとは自分で発達するようになるのです。つまり、水蒸気が多い空気は積乱雲をつくりやすいということになります。




また、積乱雲をつくる空気だけでなく、周囲の大気全体が湿っていることも必要です。そうでなければ、できた雨粒が乾いて蒸発してしまい、大雨にはならないからです。




もう1つの大切な条件は、積乱雲を移動させるために、上空に強い風が吹いていることです。これで積乱雲は風下に流されて「線状」になるのです。




こうしてできた線状降水帯の風上側の末尾には、これから発達をはじめる積乱雲が、風下の先頭には衰えて消滅する積乱雲が並びます。先ほどの「つねに5人が並んでいるスーパーのレジ」という状態です。




十分に発達した積乱雲が次々とやってくる位置にあたってしまった地域には、長時間にわたって激しい雨が降りつづくことになるのです。




このような条件が満たされやすい典型的な季節が「梅雨」です。




日本列島の南東側にある太平洋高気圧の縁に沿って、水蒸気を海からたっぷりもらった空気が西日本にやってきます。これが、その北側にある冷たくて乾いた空気と日本列島付近で衝突します。台風にともなう線状降水帯も多いのです。




線状降水帯のもとになる水蒸気は、海から供給されます。海面の水温が高ければ、大気に供給される水蒸気も増えます。




そしていま、日本近海の海面水温は地球温暖化で上昇していて、しかもそのペースは世界平均の2倍ほどです。いまのところ、100年あたり1.1度の上昇ペースですが、現状を放置し続けると21世紀末までの100年間で3.6度も上がると予測されています。




文部科学省・気象庁の報告書「日本の気候変動2020」でも、日本ではこの先、豪雨の頻度が高まっていくと指摘されています。海面水温と線状降水帯の関係ははっきりしませんが、楽観を許さないことだけは確かかもしれません。




1990年代から専門用語として使われはじめた「大気の川」という言葉も、最近は、線状降水帯に関連して新聞やテレビでよく目にするようになってきました。




大気中に、大量の水蒸気を運ぶ幅が数百キロメートル、長さが数千キロメートルほどの川のような流れが出現することがあります。これが「大気の川」です。




筑波大学の釜江陽一助教は、西日本で洪水や土砂災害を引き起こし、200人以上が亡くなった2018年7月の豪雨では、太平洋や南シナ海から梅雨前線に向かう大気の川が現れていたと、自身の研究ブログで述べています。このとき、九州北部から中国、四国地方にかけて、多数の線状降水帯が形成されていました。




線状降水帯の発生と維持には先ほどの条件が必要ですが、これらが満たされれば必ず発生するとは限りません。それに、線状降水帯が何十キロメートル、何百キロメートルの長さになるといっても、その正体は、差し渡し数キロメートルほどの積乱雲の群れにすぎないからです。こんなに小さく、しかも1時間ほどの短時間で成長と消滅を繰り返す変化の速い現象を正確に予測することは、現在の高性能なコンピューターでもきわめて難しいのです。




この事情は、夏によく発生するゲリラ豪雨と似ています。気象庁は「局地的大雨」とよぶこのゲリラ豪雨の正体もまた、積乱雲なのです。




たとえば今日の午後、ある地域の大気がゲリラ豪雨が発生しやすい状況になることは予測できます。しかし、本当にゲリラ豪雨が発生するかどうかはわかりません。なぜなら、発生してみて初めてわかるからです。




いつ、どこで空気が上昇をはじめるかは、たまたま吹く風の経路や地面の状態など、ほんのちょっとしたことがきっかけになるので、場所と時刻をピンポイントで指定した正確な予測は不可能なのです。




気象庁の「顕著な大雨に関する情報」も、線状降水帯による雨で災害が迫って初めて発表されます。「明日の午後、どこどこに線状降水帯ができるでしょう」という予報は、いまのところできないのです。危機が迫ってから発表されるので、災害発生までの時間に余裕はありません。




日本の集中豪雨では、線状降水帯によるものとそれ以外のものが、半々くらいといわれています。静岡県熱海市で土石流による多数の犠牲者を出した2021年7月3日の大雨も、線状降水帯の判定基準には達していなかったのです。線状降水帯という言葉や、線状降水帯ではないという事実に惑わされてはいけないのかもしれません。




地球温暖化は、人為的な二酸化炭素の排出増で大気の温室効果が強まり、大気中の熱のバランスが崩れ、大気の全体像が変わってしまう現象です。




それが「地球温暖化」というネーミングのために、「地球の平均気温が上がる」という側面だけが強調されて社会に伝わってしまった現実があります。冬が暖かくなるなら、それもいいではないか・・・という誤った理解につながったことも否定できません。




大気中の水蒸気が増えて豪雨が起こりやすくなること、海面水温の上昇で台風が衰えないまま日本列島に近づくことなど、気温以外の面にも世間の関心が向くようになったのは、ごく最近のことです。ふだんと違う天候に出合うと、なんでも地球温暖化に原因を求める風潮も相変わらずあります。




線状降水帯、地球温暖化、こうした科学用語を使うときは注意が必要かもしれません。その言葉を見たとたんに、さまざまな現象の原因をそこに無理やり押し込んで納得し、思考が停止してしまう危険性です。裏を返せば、大雨が降っても「線状降水帯じゃないから大丈夫」と慢心することにもつながりかねないからです。




じつは、線状降水帯にもいろいろなタイプがあります。ここで紹介してきたのは、まるで動く建物の背後に次々と新しい建物ができていくように積乱雲が生まれる「バックビルディング型」です。このほかにも、複数の積乱雲が横に並んで同時にできる「破線型」などもあるのです。




日本の線状降水帯は、そのほとんどがバックビルディング型です。線状降水帯に詳しい気象庁気象研究所の廣川康隆主任研究官によれば、日本列島はバックビルディング型の線状降水帯が発生しやすい状況にあるといいます。




日本列島に入る暖かく湿った空気は南方からやってくることが多く、ことのとき地球の大気には、上空の流れが東向きに変わっていく性質があります。これが、積乱雲を風下に流す風になるのです。




また、日本列島が位置する中緯度では、上空を偏西風が強く吹くことがあり、暖気が下層に引き込まれやすく、いずれも、バックビルディング形成に適した条件になっているのです・・・